【地域での副業づくりを作る】前編  宿泊施設管理人&名産品の加工販売

*嶺北に移住者してきた人で、新規ビジネスや本業以外の副業・二足のわらじの仕事で活躍している人のインタビューです。緑の豊かな中山間地域の土地を活かした仕事をする人や、海外と関わる活動をする人など、それぞれの個性・得意分野を活かした仕事をしている方々の特集記事です。

⏺音声でのインタビューはこちらから聴けます⏺

高知には全国に名が知られている川があります。「最後の急流」とも呼ばれる吉野川です。この川は、ラフティングなどの川下りのメッカとして名を馳せている川。

また別の魅力を持った川が高知県長岡郡の本山町にあります。

清流・汗見川です。

(四季を通じて水の透明度が高い、高知の清流・汗見川)

 

県立自然公園である白髪山のふもとに位置する汗見川は、県内でも有名なアユやアマゴのすみかとして有名な川です。

通称「汗見グリーン」とも呼ばれるほど、美しい水の色を保っています。この川の周辺の自然、緑もとても豊かです。

春先には山際にキシツツジがきれいに咲き誇り、秋には上流域を中心に色鮮やかな紅葉も楽しめるの絶好のロケーションです。

野尻萌生(のじりめぐみ)さんは、そんな汗見川のほとりで地域に関わる活動に熱心に取り組んでいます。

(汗見川流域の名産のしそを収穫する野尻さん)

 

彼女が高知にやってきたきっかけは、地域おこし協力隊でした。

地域おこし協力隊とは、人口減少や高齢化などの進行が著しい地方において、地域の外から有力な人材を受け入れ地域の活性活動に取り組んでもらい、その地に定住・定着を図って地域の力の維持と強化をねらう総務省の制度です。

この本山町での第1期生として、萌生さんは2010年に本山町へ赴任してきました。彼女の協力隊としての最初の活動は、自家栽培米を使用して作られたどぶろく「山の雫」の製造サポートでした。

(本山町自慢のどぶろく清流・汗見川で作られた「山の雫」)

本山町の美しい山から湧き出てくる水と、この汗見川流域で丁寧に育てた自家栽培米を使って作られたどぶろくは、とても飲みやすい甘口と通が好む辛口の2種類が作られています。

このどぶろく製造のサポートをきっかけに、なぜ彼女が汗見川での地域づくり活動に従事することになったのか、うかがいました。

 

高校と大学時代にタイへ

── 野尻さんのお生まれはどちらでしょうか。

野尻萌生さん(以下 野尻): 私の地元は九州の福岡ですが、転勤族の家庭で育ちました。高校時代に父親が単身赴任でタイのバンコクに行っていたことがきっかけで、高校1年生の1学期が終わったタイミングで高校を休学し、そのまま父親のいるタイに1年間住んでいました。

 

── 高校を休学し、1年間タイに住んでいたということは現地の学校に通っていたのでしょうか。


(タイのスパイシーかつクリーミーな麺料理)

 

野尻 :そうですね。でも、まったく英語も話せない状態でバンコクの学校(インターナショナルスクール)に通うのはさすがに無理だったので、初めの半年近くは、本校に入るためのランゲージスクールで語学の習得をしていました。

 

── 帰国して一年後に再編入したということは、同学年だった同級生たちが一年先輩になったということですよね。

野尻 :はい。そのときは少し複雑でした。でも、タイで暮らした1年間は私にとってとても意味がありました。その経験を生かしたくて、大分の立命館アジア太平洋大学(APU)に行きました。

 

── あの国際的な大学に行っていたのですね。では、やはり海外と関わる学生生活を送っていたのでしょうか。

(日本人と留学生が半数ずつ在籍し、日本語と英語の二言語教育を展開する国際的な大学)

 

野尻 :大学時代は児童の教育支援を行う学生国際NGO団体に所属していました。教育支援や保育衛生の活動を行う部に入り、大学の夏休みと冬休みにはまたタイに渡りました。日本にいる時も、タイ人のメンバーの協力でスカイプや電話、Eメールで現地の人とやり取りをしていました。

教育支援の活動以外に、現地の里親に対する支援や日雇い労働、エイズ問題に関わったり、大分の「一村一品運動」のような形で、タイ版の「ワンスクール・ワンプロダクト」の商品で現地の地域開発にも関わっていました。

このNGOでは教育支援の活動以外に、里親プロジェクトやエイズ問題への取り組み、大分県発祥の「一村一品運動」のタイ版、OTOP「One Tambon One Product」としてタイパンツを制作するなどして、教育費を捻出する地域開発の活動が行われていました。

地域づくりへの関心

── その流れから高知の地域おこし協力隊につながっていったのでしょうか。

野尻 :はい。大学の活動のひとつ、地方の地域づくりに関心がありました。地域おこし協力隊という仕組みがあることを知り、その第1期生として高知の本山町に赴任しました。

グローバルな世の中で、社会や暮らしの足元を見つめなおしたいという思いがありました。

当時は、汗見川の水とお米を活かして作られたどぶろくの製造のサポートをしていました。

そのどぶろく製造に手を挙げたのが、宿泊施設「汗見川ふれあいの郷清流館」の館長、地域のリーダーの方でした。その出会いから、汗見川地域の取り組みに関わるようになりました。

 

──そこはどんな宿泊施設なのでしょうか?

野尻: 少子化で廃校になってしまった旧沢ケ内小学校を活用した体験交流のできる宿泊施設です。ここ汗見川地域のシンボル的な場所になっています。

(汗見川ふれあいの郷・清流館。廃校になった後もこうして活用され続けています)

 

── 元小学校の宿泊施設なんですね。空気のきれいな山の中にある川沿いのお宿、一度泊まってみたいです。ここは、地域の人たちも利用する場所なのでしょうか。

野尻 :管理は地元住民の方々が行っているので、地区の運動会や集会としても活用されています。色々な体験プログラムを用意していますが、中でも手打ちそば体験や石窯ピザ焼き体験が人気です。
汗見川で栽培し製粉したそば粉と、地元の野菜と山菜、特産品である原木しいたけなどを盛り付けて食べる手打ちそば、石釡と薪を使い焼きたてを味わえる山菜ピザがあります。
空気のきれいな場所で食べると、格別な味になりますね。

 

(清流館の特性ピザ窯。薪のはじける音を聞きながらじっくり焼かれます)

 

── きれいな川で遊んで、地域の自然の恵みのものを食べる。ふだん都会で暮らしている人にとっては、こういう体験が貴重な思い出になるでしょうね。

野尻 :そうですね。季節によっては田植えや稲刈り、山の間伐などの作業も地元のインストラクターに学びながら体験することもできます。そして、地域特有の高齢化の問題や環境保全の資源を活かす取り組みも行なっています。