【担い手を継承すること、川の素晴らしさ】前編  地域唯一の八百屋&リバーサップ専門店代表

*嶺北に移住者してきた人で、新規ビジネスや本業以外の副業・二足のわらじの仕事で活躍している人のインタビューです。緑の豊かな中山間地域の土地を活かした仕事をする人や、海外と関わる活動をする人など、それぞれの個性・得意分野を活かした仕事をしている方々の特集記事です。

⏺音声でのインタビューはこちらから聴けます⏺

 

(自然あふれる本山町の吉野川の帰全山公園前でリバーサップを楽しむ人たち)

 

野村直哉(のむらなおや)さんは、美しい吉野川が流れる高知県本山町に住んでいます。

地域で唯一の老舗の八百屋を営みながら、リバーサップ専門店を経営している野村さん。

野村さんがなぜ本山町にやって来たのか、これまでの経緯とともにうかがっていきます。

転職して八百屋を継いだ

── もともとは会社員をなさっていた野村さんが、この本山町にやってきた経緯について教えてください。

野村直哉(以下 野村):奥さんの両親がここ本山町で八百屋をやっていたのですが、だんだんと高齢になり昔のように仕事ができなくなってきている義理の父の姿を見て、なんとかしてあげたかったんです。

中山間地域にはよくある問題だと思いますが、人口も人々の消費もお店自体も衰退していく中で、なんとか町に元気を取り戻せたらとも思っていました。

会社員としての自分の代わりはいくらでもいるけれど、この家業をこの地域で継げるのは自分しかいない。その思いがだんだんと強くなり思い切って会社を辞め、この仕事を引き継ぐことにしました。

(毎週恒例の本山町木曜市で果物と野菜を売る野村さん)

 

── 担い手になる人がいなくなる現実を見ているだけではなく、その当事者として引き受けられたのですね。

野村: はい。今ではこの嶺北で、唯一の個人商店の八百屋としてやらせてもらっています。

 

── まったく別の仕事から八百屋という青果を扱う仕事に就いて、戸惑いはなかったでしょうか。

野村 :多少はありましたが、直接お客さんと対面してやりとりができるので、良くも悪くもダイレクトに反応が返ってくるのはうれしいですね。部門にもよると思いますが、会社組織にいると大きな枠組みの中の一つのコマになってしまうので、それが大きく違いました。
今は自分が選んだ仕事ととしてやっているので、会社にいた時よりも気持ちの面では気楽にやれていると思います。

(高知市内の卸売市場で取り寄せた自慢の果物たち)

 

── 仕入れた青果の販売の経路などはどうしているのでしょうか。

野村 :基本的には卸売という形で販売しています。毎週、高知市内の卸売市場で野菜と果物を仕入れ、地域の小売店やスーパーなどに配達しています。この地域にあるいくつかのレストランにも品物を卸しています。

仕入れのコツとは

── 卸売市場というと「いまはどんなものを仕入れるべきなのか」という目利きが大事になるかと思いますが、どうやって身につけてきたのでしょうか。

野村: 目利きというか、まずはそのものの良し悪しの前に、その地域でその商品が売れるかどうかを知ることが大事です。当たり前ですが、高いものであればなんでも質が良いというわけではなく、どんな値段なら買うかという経済的な指標はそれぞれのお客さんの中でも異なります。

市場での仕入れの段階で「○○さんは、こういう味のこのくらいの値段のものが欲しいはずだ」と、個々のお客さん顔が浮かんできます。普段からコミュニケーションが取れていると仕入れるものは自然と見えてきます。目利き口利きの前に、そのやり取りをどれだけお客さんと持てているかが大事ですね。

(初めて買いにきたお客さんともコミュニケーションを取ることを心が けている野村さん)

 

── 自分本位に「今日はこれが売れるだろう」という視点ではなく、欲しい人の姿を想像しながら仕入れてくるのですね。

野村 :売りたい欲求に負けて自分本位に仕入れをしてしまうのは、この商売の失敗の典型ですね。この仕事はお客さんのことをしっかり考えていないと成功できないと思います。

例えば、65歳以上の年金受給者の方が多い地域のスーパーだと、年金が受給されたすぐあとであれば、少し高い果物も奮発して買ってくれます。逆に受給日から遠ざかっているときは財布のヒモもかたくなってしまう。そういう時には高額なものは置かないようにしたりといった工夫が必要です。

 

── 世の中のお金に流れを考えて仕入れをなさっているのですね。他にはどんな点に気を配っているのでしょうか。

野村: 天候も重要です。毎日の天気や気候からお客さんの食べたいもの、雰囲気、景気は微妙に変わってきます。
今日のこの天気・気候なら、お客さんはこんなものが食べたいだろうなぁと、人の気持ちを常に考えておくことが大事ですね。